すずめ書店

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奇妙な絵本「だいふくもち」について考察しました

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 こんにちは、すずめです。昔話の絵本はあまり読まないのですが、先日「だいふくもち」の絵本を読んで「なんだこれ!」と衝撃を受けました。奇妙なストーリーと怖い絵で、じっくり考察したくなるおもしろさがあります。娘にはまだ読ませられませんが……。

 本記事では、だいふくもちに登場するモチーフが象徴するものや、ごさくが消えた理由など、物語全般について考察しています。「読んだけれど意味がわからなかった」「なんで大福餅?」など疑問が生まれた方は、ぜひ読んでみてください。

こんな人向けの記事

・だいふくもちを読んだけれど意味がわからなかった

・深読みした考察記事が好き

 

絵本「だいふくもち」について

だいふくもち (こどものとも傑作集)

 考察の前に、絵本「だいふくもち」について簡単に紹介しておきます。全編のあらすじなど、ネタバレになる点も含まれますのでご注意ください。

だいふくもちのあらすじ

 ぐうたら暮らしていたごさくは、床下から自分を呼ぶ声がすることに気が付く。それは「あずきをくわせろ」と要求するだいふくもちだった。

 言われるがままにあずきを食べさせると、だいふくもちは小さなだいふくもちをたくさん産んだ。許可を得て食べるとかつてないほどのおいしさだ。ごさくはそれを売り、大金持ちになった。

 もっと儲けたくなったごさくは、だいふくもちに大量のあずきを食べさせた。するとだいふくもちはあずきを食べなくなり、返事もしなくなり、やがてしなびて消えてしまった。

 ごさくはだいふくもちと同じようにどんどんしなびて、ある日かねぐらの中で着物と足袋を残して姿を消してしまった。

「怖い」「トラウマ」と言われる理由

 あらすじを読んでわかるとおり、物語そのものは奇妙であるものの、特段怖いわけではありません。それでも「怖い」「トラウマ」という声が多いのは、絵の不気味さにあります。

 といっても、絵自体は昔話にふさわしいタッチで、珍しいものではありません。しかし、田島征三さんの絵は暗闇の描写が恐ろしく、何か得体のしれないものが潜んでいるような雰囲気が醸し出されているのです。

 この絵で描かれたラストシーンはゾッとするもので、一度見るとなかなか忘れられません。あらすじを読んで「怖くなさそう」と思った方は、ぜひ自分の目で絵本を開いてみてください。

「だいふくもち」の考察

丸い餅がずらっと並んでいる写真

 ここからは、文章と絵を元に「だいふくもち」の物語について考察していきます。もちろんネタバレになる部分も含まれますので、絵本を読んだことがない方はお気をつけください。

そもそもどうして「だいふくもち」なのか

 まず気になるのが、「だいふくもち」が床下にいた点と、あずきを食べてさらに大福餅を産む点です。(ここでは最初のだいふくもちをひらがな表記、それ以外は大福餅と漢字で表記します)

 そもそも餅は神聖なものとして、古来から大切にされていました。昔は白色を作るのが難しく、真っ白な色をしたお餅は稲の精霊が宿る清いものとして考えられていたのだといいます。

 お正月などにお餅を食べるのは、込められた霊力が体に入り、霊力を得て生命力を強められると考えられていたからです。すなわちお餅は神様が宿る大切なもので、食べ物以上の深い意味を持ちます

なぜだいふくもちが大福餅を産むのか

 餅が神聖なものであることを考えると、ごさくが見つけた床下のだいふくもちは、見えないところに隠れていた神様を象徴していると考えられます。であれば、だいふくもちが産む大福餅は、豊かさや富を表しているのではないでしょうか。

 お餅に宿る神様が、あずきを食べさせてくれたお礼に、ごさくに極上の富を与えた。そう考えられます。『こげんにうまいもちをくうたことがない』という言葉から、普通じゃ到底手に入らないほどの富なのではないかと想像がつきます。

 そして実際、絵本でも大福餅たちを売ることで生活が豊かになっていますね。

どうしてだいふくもちは消えたのか

 よくばったごさくがあずきを山盛り食べさせた結果、だいふくもちはあずきを食べなくなり、ごさくの言葉にも返事をしなくなります。この場面の絵で、かつては丸くふっくらしていただいふくもちが、弾力をなくし小さくなってしまったのがわかります。

 普通に読めば、たくさん食べさせられただいふくもちが元気をなくし、弱っていったようにも思えます。でも、だいふくもちが神様の象徴だと考えると、また違う考察ができるようになります。

 あずきを食べなくなったのも、返事をしなくなったのも、だいふくもちに宿っていた神様が去ってしまったからなのではないでしょうか。

 初めのうちは、ごさくがあずきを与えて神様が大福餅を差し出すというバランスが成り立っていたため、神様にとっても居心地がよかったのかもしれません。しかし、欲張りなごさくが大量のあずきを与えたことでそのバランスが崩れ、神様がごさくの元を離れたように思えます。

 だいふくもちは、しなびて最後には消えてしまいます。小さくなって消えるというのは、普通のお餅ではありえないことです(普通のお餅なら干からびて固くなるくらいですよね)。でもそれが神様の抜け殻なら、目の前から消えてしまうのも自然です。

なぜごさくも消えてしまったのか

かねぐらという場所の意味

 この絵本が「トラウマメーカー」とも言われるゆえんであるラストシーンで、ごさくは着物と足袋を残して姿を消してしまいます。ここに最も大きな謎が残ります。

 まず、ごさくが姿を消した場所が「かねぐら」であるときちんと書かれているのが不思議です。作中でかねぐらは、ラストシーン以外で登場しません。なぜこれまで登場しなかった場所で、ごさくは最期を迎えたのでしょうか

 かねぐらは財宝を入れておく蔵を指します。だいふくもちのおかげで一度は大金持ちになったごさくなので、かねぐらに財宝が残っている可能性もあります。ところが、絵では立派な箱こそ描かれているものの、財宝らしきものは見当たりません。

 でも、からっぽのかねぐらにわざわざ行くとは考えづらいですよね。すると、かねぐらの貯金が底をついたときにごさくが消えてしまったと考えるのが一番辻褄が合います。

「死んだ」のではなく「消えた」理由

 ところで、ごさくが「死んだ」のではなく「消えた」というのも奇妙な点です。そこで考えたのが、「ごさくは富だけでなく、生命ももらっていた」という仮説です。

 先述したとおり、餅は富だけでなく生命力も象徴しています。だいふくもち(神様)があずきのお礼に返していたのが、富・生命の2つであった場合、どうなるでしょうか。

 富がじりじりと減るにつれ、生命も同じようになくなっていきます。それにあわせてごさくの体はどんどんしなびていきます。それは、神様が抜け出て生命を失っただいふくもちがしなびたのと同じ様子です。

 最終的に、富が尽きたのと同時に生命もなくし、ごさくは姿を消します。その場で普通に死んでしまわなかったのは、神様の生命をもらって人間とは異なる存在になったからかもしれません。もしくは、神様に生命をもらっていなかったらとっくに死んでいたからという可能性もあります。

あとがき

考察はあくまで考察である点を忘れずに

 ここまで、わたしが思う疑問点について、納得がいくよう考察を進めてみました。自分の中で点と点が線に繋がった部分もあれば、いまいち腑に落ちないところもあります。

 忘れないでほしいのは、これはあくまでわたし個人の考察であるという点です。これが正解ではありませんし、正解はないのかもしれません。

 おすすめなのは、この考察を読んだ上でもう一度「だいふくもち」の絵本を読んでみることです。視点を変えた読み方が頭に入った状態で再読すると、自分なりの考えが思い浮かぶこともありますよ。

 だいふくもちのお話を読んで「意味がわからない」と思ってこの記事に辿りついた方は、ぜひ絵本をもう一度開いてみてください。

参考資料

 この考察には、以下のページを参考にさせていただきました。どのページも、お餅の歴史や意味などが詳しく載っています。もっと知りたいと思った方はぜひチェックしてみてください。

お餅大解剖【お餅の歴史】|100%お餅ミュージアム|全国餅工業協同組合

大福の大阪屋/白大福

彩life / お正月に食べたい!縁起物「お餅」|東彩ガス

大福もちの由来 | 蔵元認定正規特約店 石崎商店

さいごに

 考察してすっきりすればもう怖くないかな?と思い、考察部分を書き終えたあとにもう一度「だいふくもち」を読んでみたのですが、やはり不気味でゾッとさせられました。絵と文章の破壊力がすごいです。

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